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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)7705号 判決 1985年9月18日

原告

中川佳三

右訴訟代理人

吉井昭

被告

有限会社丸義木材

右代表者

梶家義雄

右訴訟代理人

和田栄重

鍜治川善英

主文

一  被告は原告に対し金一〇二三万二八二九円及びこれに対する昭和五五年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は訴外丸義木材こと梶家義雄(以下梶家という)に対し、昭和五一年一二月から木材を継続して販売し、昭和五二年七月現在で右売掛金は一一二三万二八二九円となつた。原告はその後梶家から一〇〇万円の弁済を受けたので右売掛金残額は一〇二三万二八二九円である。

2  梶家は昭和五四年七月九日被告会社を設立し、梶家がその代表取締役に就任したが、同人は前項の支払義務の履行を回避する手段として被告会社を設立したものであるのみならず、被告会社の実体は梶家個人の営業と同視すべきものである。

即ち、原告は梶家に対して前1項の売掛金一一二三万二八二九円の支払を求めて訴を提起し、第一審で勝訴判決を得たところ、梶家は訴外甲野太郎をして梶家の代理人支配人として控訴させる一方、同人に依頼して被告会社の設立手続をなしたものである。そして原告には被告会社設立の事実を秘匿したまま、右控訴審において裁判上の和解をなしたのである。被告会社の営業目的は木材の販売等で従前と変らず、役員には梶家の一族の者が就任し、商号には従前の丸義木材の名称をとり入れ、取引先や会社の資産等一切は梶家の個人営業時のものを引き継いだものである。

従つて、被告会社は法人格否認の法理により、前項の債務について梶家と別個の人格であることを主張できず、同人と同一の支払義務がある。

3  仮に以上の主張に理由がないとするも、被告会社は梶家から営業の譲渡を受け、かつ商号を続用したものというべきであるから被告会社は商法二六条により梶家の債務について支払義務を負う。

4  よつて、原告は被告会社に対し主位的請求として1、2項にもとづき、予備的請求として前項にもとづき、前記売掛金残金一〇二三万二八二九円及びこれに対する弁済期後である昭和五五年三月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、一〇〇万円を梶家が弁済したことは認め、その余の事実は否認。

2  同2の事実中、被告会社の設立、その時期、役員構成、原告が梶家に対し売掛代金の支払を求める訴を提起し、その一審で勝訴し、控訴審で和解したことは認め、その余の事実は否認。

3  同3の事実は否認。

三  抗弁

1  原告と梶家は、請求原因1の売掛金について、両者間の大阪高等裁判所昭和五四年(ネ)第三二五号事件において、利害関係人甲野太郎参加のうえ、左の和解条項により和解をした。控訴人とあるは梶家、被控訴人は原告である。

「一 控訴人は被控訴人に対し、一一二三万二八二九円の支払義務を認める。

二  控訴人は、被控訴人に対し、昭和五四年一一月から昭和五六年六月まで毎月末日限り五〇万円ずつを被控訴人代理人方に持参又は送金して支払う。

三  控訴人が前項の分割金支払を二回分以上遅滞したときは、控訴人は期限の利益を失い、被控訴人に対し、第一項の金員の残額をただちに支払う。

四  控訴人が第二項の分割金支払を二回分以上遅滞することなく支払つたときは、被控訴人は控訴人に対し、その余の金員支払義務を免除する。

五  利害関係人は被控訴人に対し控訴人の第一、二、三項の債務を担保するため、

和歌山県西牟婁郡富田町朝来字荒堀三の四二四の二

山林五三〇m2、同所三の四二四の三山林二六七m2について一番抵当権を設定し、その登記申請をする。

六  被控訴人は、前項の抵当権設定登記完了後、ただちに大阪地方裁判所昭和五三年(ワ)第五八三八号事件の執行力ある判決正本にもとづく強制執行申立を取下げ、執行解放申請をする。

七  被控訴人は、その余の請求を放棄する。

八  訴訟費用は第一、二審を通じ各自負担とする。」

2 梶家は右和解条項第二項の支払を二回分遅滞なく行なつた。

3 よつて、梶家は同第四項の約定に従いその余の支払義務を免除されたから、被告会社は本件の支払義務を負わない。

四 抗弁に対する認否

抗弁1、2の事実は認め、同3は否認。右和解条項第四項は梶家が同第二項の分割金合計一〇〇〇万円を、二回分以上分割金支払を遅怠することなく支払つたときは、その余の金員即ち一一二三万二八二九円から一〇〇〇万円を差引いた一二三万二八二九円の支払義務を免除するというものであり、被告主張のような意味ではない。即ち、原告は同第六項の強制執行において四八〇万円相当の外材原木を差押えており、同第五項の山林の評価額も八〇〇万円相当と説明を受けており、僅か一〇〇万円程度の弁済でもつて第六項の執行解放に応じるはずがない。右和解後に成立した原告と梶家間の大阪簡易裁判所昭和五七年(メ)第一五号調停申立事件の調停条項において梶家が残額全部についての支払義務を認めているのはこれを裏付けるものである。

五 再抗弁

仮に右和解条項第四項が被告主張のように解されるとすれば、右和解は免除額に要素の錯誤があり無効である。

六 再抗弁に対する認否

否認

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実中、原告が金一〇〇万円の弁済を受けたことは当事者間に争いがなく、その余の事実は<証拠>により認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

二同2の事実中、原告が梶家に対する木材の売掛代金一一二三万二八二九円の支払を求める訴を提起し、第一審で請求認容の判決があつたこと、これに対して控訴が提起されその係属中の昭和五四年七月九日被告会社が設立され、梶家が代表取締役に就任したこと、その後右の訴は控訴審において訴訟上の和解が成立して終了したこと、これらの事実は当事者間に争いがない。そして原告及び被告代表者各本人尋問の結果によれば、右和解成立の時点では原告は梶家が被告会社を設立したことを知らなかつたものと認められる。

三そこで被告会社の設立の経緯、経営の実態について検討するに、<証拠>によると、梶家は昭和四五年ころから「丸義木材」の屋号で木材の卸業を営んでいたが、前述のように昭和五四年七月九日「有限会社丸義木材」との商号で被告会社を設立したこと、会社設立後の営業目的は個人営業当時と同一であり、取引先も従前のものを引継ぎ、営業場所も従前同様自宅にある事務所をもつて本店としたこと、個人営業当時の営業用資産としてほとんど唯一のものであつたトラックは会社資産として引き継ぎ、借家である事務所の権利も会社で引き継いだこと、役員は当初梶家の親族及び知人で構成し、間もなく監査役を除いて親族のみとなつたが、梶家を除いたこれらの役員はいずれも形式上のもので、実際の経営に参画してはおらず、役員報酬の支給もしていないこと、被告会社の営業活動は梶家が数名の従業員を使用して行つていること、以上の事実が認められ、これらの事実によれば被告会社は形式上法人成りしたとはいうものの、その実体は梶家の個人営業同然の状態にあるものと認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

また、<証拠>によれば、梶家は被告会社設立の当時「丸義木材」の負債として約一五〇〇万円の負債をかかえており、その大部分が原告に対する本件の売掛代金債務であつたこと、そして右売掛代金請求事件の控訴審で和解をするについて原告に被告会社設立の事実を知らせていないこと、当時梶家個人としては和解による分割金の支払を担保すべき格別の資産、資力を有しない状態であつたこと、右の和解による分割金について梶家は五〇万円宛二回支払つたのみであり、右和解において担保提供した和歌山県の山林もほとんど担保価値のないものであつたこと、右の和解は梶家が事件処理を依頼した訴外甲野太郎が前記控訴事件の訴訟代理人支配人として出頭したうえ成立したものであるが、同人は右のような債務整理事務を手広く引き受ける者として知られ、後日弁護士法違反で逮捕された者であること、右甲野は被告会社の定款の認証を受けるにあたり他の役員全員を代理するなどその設立手続に深く関与し、自ら取締役に就任していること、以上の事実が認められ、これらに、前述の梶家の負債の状況からすれば、右時点で被告会社を設立することには合理性がなく、不自然と解されることをも併せ考えると、梶家が被告会社を設立した主たる目的は、その法人格を利用して、営業収益に対する原告の追及を避けつつ木材卸業を継続することにあつたものと推認でき、これに反する被告代表者の供述部分は措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

四右のように被告会社はその実態において梶家の個人営業同然であつて、法人格は形骸化しており、その設立動機にも債権者の追及回避という法人格の濫用的意図を孕むものと認められるから、被告会社は原告に対し丸義木材こと梶家と別個の人格を主張できない場合にあたるものといわねばならず、同人の原告に対する前記売掛代金債務と同額の支払義務を免れない。

五原告と梶家の間に成立した前記和解の和解条項が抗弁1記載のとおりであつたこと、梶家が同2記載のとおり分割金の支払をしたことは当事者間に争いがない。

そこで被告会社は右和解条項第四項によつて梶家のその余の支払義務は免除されたから、被告会社の支払義務も消滅した旨主張する。

しかしながら、和解条項各項の解釈については、使用された文言の文理に忠実であらねばならないことはいうまでもないけれども、それとともに当該条項の文言にのみとらわれることなく、当該条項が全条項の中に占める位置ないし機能をも考慮に入れつつ、右の文理解釈上の限度を超えない範囲の中で、全体として有機的に解釈することが必要と解せられるところ、本件の右和解条項についてこれをみると、第一項は梶家の総額一一二三万二八二九円の支払義務に関する確認条項であり、第二項は内金一〇〇〇万円についての分割支払とその方法を定めた給付条項であり、第三項は第二項の分割支払についての懈怠約款を定めており、問題の第四項はこれに続いて定められているものであつて、その文言及び位置からして第三項に対応し、同項所定の懈怠なき場合、即ち梶家が期限の利益を失うことなく第二項の分割金合計一〇〇〇万円を完済したときの一項の残額の処理方法を定めたものと解される。このことはこの種の和解条項の一般的構成に沿うものであるし、表現自体の問題としても、第四項の「控訴人が第二項の分割金支払を二回分以上遅滞することなく」との表現は第三項の「控訴人が前項の分割金支払を二回分以上遅滞した」という表現の忠実な否定型をとつていることからして、第四項は第三項に対応して一対をなすものと読みとれること(もつとも第四項の前記表現は「控訴人が第二項の分割金支払を期限の利益を失うことなく」とすれば一層疑義がなかつたと思われる。)、第四項を右のように解さなければ、第二項の一〇〇〇万円の給付条項を敢えて設けた意味の大半が失われることなどの諸点に照らして考察すればよく首肯し得るものと解される。

従つて、右和解条項第四項は、被告会社主張のように、同第二、三項の規定と無関係に、単に分割金の支払を二回分合計一〇〇万円以上遅怠なく支払つたときはその余の同第一項の支払義務を免除することを定めたものとは解されないから、被告会社の抗弁は採用できない。

六以上によれば、前記売掛金残額一〇二三万二八二九円とこれに対する弁済期後であることが明らかな昭和五五年三月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の主位的請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官中村直文)

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